2. なぜ金型が必要か?
製造業で使われる金型は、私たちの生活を支える重要な存在です。しかし、一般の人々がその存在を身近に感じることは、ほとんどありません。
日々、現場で金型を利用し、薄鋼板など被加工材のプレス加工に従事している人にとって、なぜ金型が必要かと考えることは大切です。自らの仕事を見直すだけでなく、このような問題意識を持つことは、考える技術者・技能者としてのスキルアップにつながります。
ここで、なぜ金型が必要か? の問いに戻りましょう。製造業は、人々の生活を豊かにする製品を作り続けています。また、時代の変化やニーズの多様化に対応するために、以下のような進歩が求められています。
製品開発のスピードアップ
製品の均一高精度化
製品のコストダウン
製品の多様化、小ロット化
製品の短納期化
製造の環境対策、軽量化
すなわち、生産における品質・納期・コスト(QDC:Quality、Cost、Delivery)の向上です。これらに対応するためには、まず、製品の最終形状に近い中間品を作り、そこから不必要な箇所だけを取り除く方法で、製品を作ります。また、できるだけ工程数が少ない生産方法が望まれます。これらの要望をかなえる、代表的な生産方法が、金型を利用する塑性加工の一つ、金属プレス加工法です(図2)。
図2:金型を用いた金属プレス加工法でQDCの向上を実現
金属プレス加工法を効果的に利用した身近な例が、硬貨です。硬貨は明治初期に、従来の鋳造による製造法を変更し、金型を利用した金属プレス加工法で作るようになりました。その結果、品質を均一に維持しつつ、安価な大量生産が可能になりました。
このように、同一形状の製品を比較的簡単に大量生産できる金型は、私たちの生活に欠かせない存在です。ドイツでは、金型は生産工学の王と表現されています。