プレス絞り加工/深絞り加工・へら絞り加工とは?
プレス加工には多くの加工法があり、プレス絞り加工はその中で最も難しいとされる加工法です。絞り加工とは、板金加工の一種です。一枚の金属板に圧力を加え、絞り込むことで凹状に加工し、容器の形状にする加工方法です。継ぎ目がなく利用用途が非常に高い加工方法のため、アルミ缶や灰皿、ボトル容器など様々な製品に利用されます。絞り加工はプレス加工の中でも最も金型の設計が難しく、加工条件などのバランスがうまくかみ合ってこそ、シワや割れの無い絞り加工ができます。深絞り加工は、絞り加工の中でもでも穴が深いため、更に難度が高く、技術者の技量が重要となってきます。また、へら絞りとの違いを簡単に説明すると、絞り加工は金型を一気に押し込む加工方法となり、ヘラ絞り加工は板材を回転させながら工具を押しあてる加工方法となります。へら絞りは、絞り加工に比べて生産スピードがやや遅いものの小さな圧力で成形できます。
絞り加工とは?
「絞り加工」とは1枚の金属板を容器形状に変形させる塑性加工です。金属板を絞るように圧力を加えると立体的に変形します。絞りは円柱や円すいといった単純な形状から、鍋やお椀のような曲げ具合の加工、さらに複雑な形の製品加工まで対応できます。絞りの製作物には継ぎ目がないのが大きな特徴です。また、絞り加工の場合、金属板を延ばさないため成形の前後で板厚が変わりません。
プレスによる絞り加工とは
プレスとは、金型を取り付けたプレス機械を使用して、金属素材にせん断、打ち抜き、穴あけなどをおこなう加工技術です。絞り加工もプレスで対応できますが、難易度が高く慎重な作業が求められます。ここでは、プレスによる絞り加工の種類や工程、加工可能な形状について解説します。
プレス絞り加工の種類
絞りの深さによって「浅絞り加工」「深絞り加工」に分けられており、言葉通り、製品の深さ距離が短いのが浅絞り加工、長いのが深絞り加工です。絞り加工には6種類があり、成形したい形状に合わせて適切な加工方法を選びます。プレスによる絞り加工は上下の金型で挟んで加圧して成形するのが一般的です。ほかに、熱を利用する「温間成形法」や液圧を利用する「対向液圧成形法」もあります。素材特性や製品形状によっては、これらの特殊な絞り加工を採用します。
・円筒絞り加工
・角筒絞り加工
・円すい絞り加工
・角すい絞り加工
・球頭絞り加工
・異形絞り加工
プレス絞り加工(Deep Drawing Processing)の工程
プレスによる絞り加工では、パンチ(上から押し込む金型)が、ダイ(目的の形状になっている下側の金型)に沈み込んで成形するのが基本の流れです。ひびや割れ、ひずみがないように加工するため、次の工程を踏む必要があります。
1.板の形状と寸法を決める
複雑な形状になる場合でも、体積一定の法則によってブランクの寸法と形状が求められます。絞り加工後の完成品の体積から、材料であるブランク(板)の直径が逆算できます。絞り加工後に縁をトリミングする場合は、トリミング代がとれるようにブランク直径を決めます。
2.絞りの回数を定める
1回の絞りで成形できる深さには限界があるため、素材ごとの限界絞り比、あるいは限界絞り率から必要な絞り回数を判断し、定めます。
3.金型の設計
プレスによる絞り加工の金型として、パンチとダイ、ブランクホルダーの設計が必要です。何度か再絞りをおこなうのなら、最後の絞りから初絞りまで順にパンチ肩の半径とパンチ直径を計算していきます。ダイの設計では、ダイ穴径とクリアランス、ダイ肩の半径を決定します。
4.プレス機械を選定する
必要な「絞り加工力」を求め、適切なプレス機械を選びます。金型を取り付けるのに十分な寸法があることや、絞り加工力とシワ抑え力を同時に出力できる加圧性能を持つこと、逆方向の加圧力で成形品をパンチから取り外せることも選定条件として重要です。
5.材料を決定する
材料を決定する際は、素材の特性である「引っ張り強さ」「降伏点」「伸び」「硬さ」を検討します。中でも「伸び」に関わるr値とn値は、絞り成形法に大きく影響する要素です。r値が大きいほうが、より絞りやすい材料です。また、材料のn値が大きいほど加工や変形で硬くなりやすい性質を持ちます。
6.適した潤滑油を選ぶ
プレス絞り加工では油性または水性の液圧潤滑油を用います。粘度や洗浄性、冷却性などを勘案して選ぶことが大切です。潤滑油が金型とブランクに起こる摩擦を減らし、破断や焼付き、かじりなどの発生を抑えられます。
へら絞り加工(Spinning)とプレス絞り加工の違い
代表的な絞り加工の技術には、プレス絞り以外に「へら絞り加工」があります。金属を回転させながら加工するため「スピニング」とも言い、へら絞り加工には職人が手作業で行う「手絞り加工」と機械で行う「自動絞り加工」の2種類があります。
へら絞り加工のメリット・デメリット
メリット | デメリット | ||
初期コストが安い | へら絞り加工は金型が1つで済むため、設備にかかる費用を抑えられます。金型より低コストの木型も使用できますし、高価なプレス機も不要です。 | 作業者の技術が不可欠 | 微妙な感触や力加減など、熟練工の技術や経験、勘などが不可欠な加工法です。 |
製作期間が短い | 金型の作成時間を省けるため、熟練の技術者の手にかかれば簡単な製作物なら1時間で完成します。複雑なものでも1週間もあれば十分です。 | 大量生産には不向き | いくら製作期間が短いといっても、手作業になるため、量産は現実的ではありません。試作・小ロットに向いている加工方法です。 |
対応範囲が広い | 扱う素材にもよりますが、ヘラ絞りは数mm単位の小さい製品から、数m規模の大きい製品まで幅広く加工できます。複雑な形状を絞る場合でも問題ありません。 | ||
加工品質が高い | 職人の技術や機械の性能が向上し、安定した精度を出せます。表面が滑らかで、軽量化や強度の改善も図れるなど品質面に優れます。 |